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札幌地方裁判所 平成3年(行ク)1号 決定 1991年3月18日

申立人

関戸豊

右訴訟代理人弁護士

冨岡公治

松村亮哉

相手方

建設大臣

綿貫民輔

右指定代理人

大沼洋一

外九名

主文

当庁平成二年行ウ第一六号損失補償請求事件の被告建設大臣綿貫民輔を被告国に変更することを許可する。

理由

一本件申立の要旨は「申立人が提起した当庁平成二年行ウ第一六号損失補償請求事件(以下「本件訴」という。)につき被告を建設大臣綿貫民輔としたが、行政事件訴訟法四〇条二項、一五条一項により、本件訴の被告を国に変更することを許可する旨の決定を求める。」というにある。

二当裁判所の判断

1  本件記録によれば、申立人は、原告となり、相手方を被告として

「一 被告が起業者として施行する一般国道二三一号線札幌市地内創成川沿道路改築工事による、別紙物件目録一、二記載の土地の収用による損失の補償に関し、平成二年八月三日北海道収用委員会がなした土地所有者兼関係者原告に対する「土地に対する損失の補償金九〇一万五〇〇一円、立木伐採に対する損失の補償金三五六円、建物等の移転に対する損失の補償金三四三四万三〇八三円及び別紙物件目録一、二の占有者原告に対する補償額がそれぞれの土地所有者兼関係人の損失の補償額に含まれる」との決定を「土地に対する損失の補償金一三三九万一二六六円、建物等の移転に対する損失の補償金一億四一四九万六二〇〇円及び本件土地の占有に対する損失の補償金四六六九万〇七六六円」と変更する。二被告は原告に対し、金二億一五七万八二三二円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。」との内容の本件訴を提起したことが明らかである。

2  右訴えは、第一項において、損失補償額の増額を求め、第二項において、右増額後の損失補償額に基づいた給付を求めているから、公法上の当事者訴訟たる土地収用法(以下、「法」という。)一三三条一項が定める「損失補償に関する訴」に該たる。

ところで、同条二項において、損失補償に関する訴えは、原告が土地所有者又は関係者である場合は、起業者を被告としなければならないと規定されているところ、同条項にいう起業者とは、所定の収用適格事業を行う者で(法八条一項)、一定の手続きによりその事業に必要な土地所有権を取得する(法一〇一条)とともに、収用土地所有者及び関係人に対して損失補償の義務を負う(法六八条)べきものであるから、建設大臣のように国の一機関にすぎず権利・義務の主体たりえない者は起業者に該たらないと解するのが相当である。他方、弁論の全趣旨によれば、本件土地収用は、昭和六二年五月一九日建設省告示第一一一四号に基づく一般国道二三一号改築工事にかかるものであることが認められるところ、道路法一二条、五三条一項、九〇条に照らせば、右工事にかかる対外的な費用の負担者であり、工事結果の帰属主体である国が法一三三条二項にいう「起業者」であり、右訴は国を被告とすべきと解される。

よって、本件訴は、被告を誤ったことになる。

3  そこで、本件訴において被告を誤ったことが、行政事件訴訟法一五条一項にいう「故意又は重大な過失」によるものであるかにつき検討する。

道路法一二条には、「国道の新設又は改築は、建設大臣が行う。」とあり、弁論の全趣旨によれば、本件土地収用にかかる裁決書にも起業者として建設大臣が表示されていることが認められるところ、右法条は、国道については建設大臣が国の機関としての立場において一切の責任、権限を持つことを規定し、裁決書の記載も国の機関としての建設大臣を表示したにすぎないと解されるものの、右法条の文言及び裁決書の記載からいって、申立人が法に規定する起業者を建設大臣と判断し、建設大臣を被告として損失補償に関する訴を提起したとしても無理からぬことといえなくもなく、したがって、本件訴の被告を誤ったことをもって「故意又は重大な過失」があったとまではいえない。

4  よって、申立人の本件申立は理由があるからこれを認めることとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官若林諒 裁判官山下郁夫 裁判官宮永忠明)

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